「新世界市場屋台街」の仕掛人が案内する、ディープな商店街の魅力。地元民しか知らない日常の新世界ツアー
2024.02.13
地元民が愛する「新世界」の穴場スポットとは? 知る人ぞ知る秘密の大阪を案内する「1DAYローカルツアー」や、近年盛り上がりを見せる「新世界市場」にスポットを当て、新世界の案内人・くまがいはるきさんのおすすめモデルコースをご紹介します。
大阪屈指の観光スポットとして知られる「新世界」。新今宮駅や動物園前駅からジャンジャン横丁を抜け、通天閣に登ったり串かつを食べたり……というのが定番コースとされていますが、近年、恵美須町駅側に広がる「新世界市場」が大きな変貌を遂げ、盛り上がりを見せていることはご存知でしょうか。
1916年に誕生した新世界市場は、戦争被害からの復興後、一時は約50軒もの店舗が営業するほど賑わいましたが、高齢化などの問題で次第にシャッター通りに……。2010年頃からはイベント会場としての利用が増え、2012年には、現在も続く奇祭「セルフ祭」が始まったことで注目度が高まりました。
現在は、屋台街としてかつての閑散ぶりが嘘のように活気づいています。この状況を作ったのは、商店街の中で「イマジネーション ピカスペース」を営む、くまがいはるきさん。新世界商店街の新時代を作ったといっても過言ではないくまがいさんに、定番から一歩先に進んだ新世界の楽しみ方を教えていただきました。
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くまがいはるき宮城県気仙沼市出身。静岡県浜松市で陶芸家として活動するが、東日本大震災を機に地元に戻り、復興支援の活動に従事。2012年に大阪に移住し、友人たちとともに現在まで続く奇祭「セルフ祭」を発足させる。同年、セルフ祭の事務所に使用していた店舗を「イマジネーション ピカスペース」として開業。以来、同店の店主を務める。新世界市場商業協同組合では青年部の部長を務め、2022年には「新世界市場屋台街プロジェクト」を発足。市場内の屋台を全面的にプロデュースしている。
できたてテイクアウトが絶品! 「肉のさかもと」
まず最初に訪れたのは、恵比須町側の入口にある「肉のさかもと」。1910年に創業し、まさに新世界の生き字引ともいえるお店です。現在は、コロッケなどの揚げ物、ビフカツサンドなど、テイクアウトグルメの販売を中心に営業。週末には行列必至ですが、新世界市場を巡るなら、マストバイなお店です。
今回は、まず子どもから大人まで、圧倒的な支持を得る名物「通天閣コロッケ」をチョイス。ほくほくのじゃがいもにジューシーなミンチが絡み、懐かしくも奥行きの深い味わいを生み出しています。
そして、もう一つ紹介したい名物が「特上ヘレカツサンド」。お値段1,800円(税込)と聞くと、一瞬「高っ!!!」と思ってしまいますが、そこは肉のプロフェッショナルが吟味した最高のヘレ。口に含んだ瞬間に溢れ出る肉汁、そして柔らかな食感を体験すれば、この価格設定がどれだけオトクであるかを思い知るでしょう。
おやつから漬物、日用品にアニマル柄と、なんでも揃う店舗ラインナップ
新世界市場商店街で現在、店舗営業を行っているお店は17軒(組合加入店)。創業から100年を越えるお店も多く、日用品店「ミヤウラいろいろSHOP」も、その一つ。調理器具から掃除用具まで、日々の暮らしに役立つ商品を数多く取り揃えています。
こちらのお店では、店先に奥様であるヒロコさん手作りのからくり装置を設置。某番組にちなんで「ヒロコダスイッチ」と名付けられ、誰でも自由に遊ぶことができます。
商店街の中でも特に老舗感を色濃く漂わせているのが「中山菓舗」。1914年の創業以来、和菓子・洋菓子の販売を続け、店頭で炊く赤飯も名物となっています。商品は手作りのお菓子でも200円台で買うことができ、財布にやさしい価格設定となっています。
こちらも「中山菓舗」と同じ1914年に創業した老舗の漬物専門店「山田屋商店」。店頭に並ぶ漬物は、梅干し、千枚漬け、水なす、キムチなど幅広い種類をラインナップ。予算に応じた詰め合わせなどにも対応し、ギフト用で購入する人も多いのだとか。
100年越えの老舗が残る新世界市場商店街ですが、新しいお店も元気! 大阪のおばちゃんの戦闘服ともいえるアニマル柄アパレルの専門店「なにわ小町」は、2010年に開業。マダムに限らず若年層や男性のお客も多く、今や定番の大阪土産として親しまれるほどの人気を獲得しています。
新世界市場再生の拠点「イマジネーション ピカスペース」
くまがいさんが店主を務める「イマジネーション ピカスペース」。「セルフ祭」の事務所として一時的に使用していた場所でしたが、紆余曲折を経てくまがいさんがオーナーとなり、イベントスペース&バーとして2012年に開業。コロナ禍の一時休業を経て、今度は中華そばの専門店として再開し好評を博しましたが、「仕込みが大変すぎて…」という理由から継続を断念。そして、2022年7月に現在の営業形態である写真とシーシャが楽しめるお店として再スタートを飾りました。
中華そばの専門店から写真集&シーシャのお店という方向転換に誰もが驚きましたが、このアイデアは、くまがいさんの友人で、写真家・コピーライターとして活躍する日下慶太さん発案によるもの。
お店の方向性を模索していた際に、日下さんの「写真とシーシャって言葉の響き似てるし、一緒に楽しめたら良くない?」というひと言から、すぐさま新形態の準備が始まりました。
「アイデアが固まった時点で日下くんがすぐ写真集を250冊買ってきたので、もうあとに引けなくなって(笑)。」あれよあれよという間に、さまざまなフレーバーが味わえる関西屈指のシーシャバーが新世界にオープンしたのでした。
週末は大賑わい! 飲んで歩いて楽しむ、新世界市場屋台街での過ごし方
くまがいさんが先導し、2022年に始まった「新世界市場屋台街プロジェクト」。手軽に始められる営業形態として提案され、初回の2店舗の枠に約90軒もの応募が殺到。現在、屋台は居酒屋を中心に8軒にまで増え、全店舗がオープンする週末には、日が明るいうちからたくさんの人が訪れます。屋台はすべてくまがいさんの手作り。
新世界市場での飲み歩きを楽しむなら、屋台以外にもぜひ立ち寄っていただきたいお店があります。それが、ホルモンをふんだんに使った焼きそば・うどんが名物の「権兵衛」。もともとは新今宮の高架下に店舗を構え、“西成三大ホルモンの一つ”といわれる名店でしたが、老朽化のため2021年に移転。現在は、新世界で昼からサクッと食べて飲めるお店として人気を博しています。
新世界の景色を一変させたカフェ併設の宿泊施設「THE PAX」
新世界市場での1DAYツアーを行うなら、宿の確保もしておきたいもの。そこで利用したいのが、市場の真横に隣接する複合施設「THE PAX」です。1階はバインミーが看板メニューのカフェとレコードショップ、2階・3階がゲストハウスとして運営されています。
オーナーの浜本沙樹さんは、福島区でゲストハウス「由苑」を経営しており、よく飲みにきて愛着の深い新世界にも、いつか宿泊施設を作りたいと考えていました。そんな折、旧知の仲であったくまがいさんから、建物の空き状況を聞きつけ、契約を即決。現在では新世界でも指折りの人気宿となり、数ヶ月前から予約が埋まることもあるそうです。
営業時間:カフェ営業11:00〜21:00
定休日:無休
電話番号:070-3899-3605
公式サイト
新世界住民の疲れを癒す「新世界ラジウム温泉」
いろいろ巡り歩いたあとは、ゆっくりお湯に浸かって疲れを癒やしたいもの。そんなときには通天閣の真下にある銭湯「新世界ラジウム温泉」がうってつけです。1952年に開業したこちらは、大阪の銭湯で初めて導入された高濃度炭酸泉や、ラジウム鉱石を沈めたお風呂で心身ともにリフレッシュ。広い浴室や露天風呂で過ごす贅沢なひとときは、旅の思い出になることうけあいです。
新世界最強の町中華「香港」で至福のディナータイム
「新世界ラジウム温泉」での入浴後、体もすっかりととのい、気がつけばディナーの時間に。ここで足を運んでおきたいのが、大阪町中華の名店として知られる「香港」です。1969年に開業し、現在は2代目のご主人が伝統の味を受け継いで周辺住民の胃袋を満たしています。先ほど紹介した「THE PAX」の真横ということで、おしゃれなカフェと味な雰囲気のザ・町中華が隣り合っているのも新世界ならではの魅力です。
番外編:市場の他にも訪れたい、新世界こだわりスポット
100年以上もの歴史を誇る新世界は、市場の外にも魅力的なスポットが満載。新世界市場を堪能して、さらに街の魅力を深掘りしたくなったら、ぜひ足を運んでみてください。
新世界市場とその周辺を巡る1DAYツアー。新世界の中でも、ジャンジャン横丁などがある南側がメジャーな大阪のイメージとすれば、今回紹介した新世界市場がある北側は、古き良き町並みや人情に触れやすいエリアといえるでしょう。
定番コースとは違った魅力を持つお店の数々は、新世界の懐の広さを知るにはもってこい。大阪観光で訪れる予定がある人は、ぜひ、新世界市場を中心とした行程を検討してみてください!
- Text
- 伊東孝晃
- Photo
- 古賀亮平
- Edit
- トミモトリエ(人間編集部)
※掲載情報は2024年2月時点のものです。掲載店舗・施設に関する最新の営業時間は各店舗・施設のHPなどでご確認ください。