街の妖怪を探せ!下町の商店街に潜む不可思議な「布施」の魅力
2024.03.21
大正時代から栄える下町「布施」の商店街が妖怪だらけに……? 知る人ぞ知る秘密の大阪を案内する「1DAYローカルツアー」、布施の案内人・ぎんさんのおすすめモデルコースをご紹介します。
東大阪市の西端に位置する布施エリア※。1914年(大正3年)に駅が開業して以来、大阪と奈良を結ぶ交通の要衝として栄えたこの街は、モノづくりの先進都市である東大阪市随一の商業集積地であり、商売繁盛の神様をまつる「布施戎神社」があることから、えべっさんの街としても知られています。
※1967年に、布施市・河内市・枚岡市が合併して東大阪市になったため、現在行政上「布施」という地名は存在しない
近鉄大阪難波駅から電車で10分の「布施駅」周辺には、駅直結の近鉄百貨店や、ショッピングモール、ホームセンターなどが揃い、戦前から続く商店街には、様々な商店が軒を連ね、街の人々の生活を支えています。
そんな布施の商店街で近年盛り上がりを見せているのが、2017年にスタートした「妖怪あつめ」。商店街に隠れている妖怪を探して写真に収めると、抽選で賞金がもらえる……というこのイベントは、今や子供から大人まで3000人以上が集まる秋の風物詩になっています。
仕掛け人は、広島県出身の彫師・ぎんさん。21歳の時にたまたま立ち寄ったこの土地に定住してしまったというぎんさんに、「妖怪の街」として布施を案内していただきました。
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ぎん広島県出身。地元でキッチンカーの移動販売を営んだ後、21歳で大阪に。たまたま立ち寄った布施を気に入り定住。2017年から、商店街復興のためにイベント「妖怪あつめ」をスタート。2023年7月に妖怪専門店「ビリビリモンスター」をオープン。
網目のように広がる布施の商店街
布施の商店街は、駅前ロータリーから南にのびる「プチロード広小路」、駅西側の高架下から南に広がる「フラワーロード本町」と北に続く「ブランドーリふせ」をはじめ、たくさんの商店街が網の目のように走っています。
東野圭吾さんの人気小説『白夜行』の舞台になっているのもこの辺り。
まずは、商店街を散策してみましょう。
人情溢れる食べ歩きロード「フラワーロード本町」
布施戎表参道にあたる「フラワーロード本町」は、昔ながらの老舗店舗が点在する下町らしいアーケード商店街。テイクアウト専門のお好み焼き屋や蒲鉾屋など、食べ歩きできる軽食を提供する飲食店が多いのも特徴です。
創業70年をこえる「肉のやまじん」は、精肉だけでなく、コロッケやミンチカツ、エビフライなど30種類以上ある揚げ物が人気。揚げたてのフライで作るお弁当やハンバーガーも絶品です。
こちらは、創作練り天のお店「三ツ矢蒲鉾本舗」。定番ものから旬の野菜を使った季節限定ものまで、常時15種類ほどの練り天が並んでいます。ご夫婦と小学生の看板娘の3人で切り盛りしており、お喋りするのを楽しみに通う常連さんも多いそう。
おばあちゃんがその場で自分好みに七味を調合してくれる「七味屋 こぐま」。元々は子供服の販売をされていましたが、少子化を理由にお好み焼き屋に転身。現在は、同時進行ではじめていた七味の販売一本で商売を続けられています。
道路拡幅で半分だけ残った「プチロード広小路」
中央南出口から見える「プチロード広小路」は、1914年の大阪電気軌道上本町~布施間開通から高度経済成長期まで大きく発展した商店街(旧:広小路商店街の西側)。1977年に行われた道路拡幅で、商店街の東側半分が道路(現:府道172号線)になり、西側半分だけが残りました。
大きな桃のシンボルが出迎える「和洋菓子 モモヤ」は、大福やまんじゅう、おかきなど、自宅用にもお土産にも喜ばれるお菓子が揃う老舗和洋菓子店。大阪名物のミックスジュースを大福に閉じ込めた人気商品「みっくすじゅーす大福」は、お昼には売り切れてしまうことも。
「プチロード広小路」を南下すると、創業100年近い地元の名店「金太郎パン」があります。布施の子供たちが金太郎のように元気に健やかに育ちますようにと名付けられ、家族代々紡いできたこのお店では、常時30種類以上の創作パンが店内を埋め尽くしています。
他にも、三味線・琴・尺八などの和楽器と招き猫を販売している「松井楽器店」、黄色い看板が目を引く中華料理店「おぼこ飯店」など、地元民に愛されている名店が数多く残っています。
角打ちの聖地! 酒屋だらけの「ブランドーリふせ」
「ブランドーリふせ」は、「フラワーロード本町」から高架下を隔てて北側に位置する商店街で、一から四番街までの総距離が約600mもあります。様々な飲食店がありますが、昼間から飲める酒場や酒屋が多い「角打ち」の聖地なのです。
暖簾の低さが特徴的な大衆居酒屋 「淡路屋」は、地元のおっちゃんたちから若者まで、幅広い年代で賑わう地元の人気店。
惜しくも閉店してしまった「酒処 ひらた」は、おでんが絶品の角打ちスポットとして愛されていました。
布施妖怪の街化計画の拠点「ビリビリモンスター」
ぎんさんがアトリエとして長年使用していた拠点の真下に、2023年にオープンした「ビリビリモンスター」は、Tシャツや雑貨の販売とオリジナルラグマットが作れる妖怪専門店です。
元々音楽が好きだったぎんさん。キーボードの講師免許を取るために埼玉に行く途中、たまたま立ち寄った布施の街を気に入り、そのまま定住してもうすぐ28年……。
「広島にいた18歳の頃から、自分で商売やってたんですよ。3年くらいキッチンカーで飲食の移動販売をして、お金が貯まったから『好きなことしよう』と思って。埼玉にあるキーボードの専門学校に通うつもりが……布施に住み着いちゃいました(笑)」
その後、絵を描くのも好きだったという理由から彫師になり、気付けば「商店街を盛り上げる若手」として布施の人気者に。高齢化で空き店舗が増えていた商店街を盛り上げるために何かできないか……?と、商店街の重鎮から相談を受けて考案したのが「妖怪あつめ」なのです。
「当時、商店街の組合員ってほとんどが60代以上で、40代の僕が若手としてアイデアを求められたんです。地域おこしとかできるタイプじゃなかったけど、自分の好きなことならできるかなと思って、布施を妖怪の街にしましょうって提案しました」
子泣き爺の発祥の地と言われている徳島県三好市や、百鬼夜行の伝説が残ることから「妖怪ストリート」として知られる京都の「大将軍商店街」など、妖怪を題材とした地域おこしは前例も多い。「妖怪あつめ」で使用している被り物は、妖怪藝術団体として活動する嵯峨美術大学の学生・OBによるチーム「百妖箱」が制作したもの。最初は集客500人だったものの、年々口コミで参加者が増え、2022年に3000人の動員を記録。
「布施のシンボル・えべっさんこと『戎大神(えびすおおかみ)』は『蛭子命(ひるこのみこと)』とも言われ、妖怪としても描かれるヒルコの元ネタになっているんですよ。」 また、大正時代から続く商業集積地に息づく「目に見えない何か」や、商店街に暮らす個性豊かな人々を独自の妖怪としてアピールできないか? と考えたそうです。
2023年から新しい取り組みとして、布施の街の人々をモデルにした妖怪フィギュアを制作し、ガチャガチャに。「生きる妖怪」として会いに行ける仕組みになっています。
何が出るかお楽しみ。ガチャガチャになった「会える妖怪」たち
こちらが、街の人がモデルになった、布施に生きる妖怪たち。ぎんさんが街の重要人物や人気者をスカウトしていき、どんどん増えているそうです。妖怪フィギュアのモデルがどんな人たちなのか、会いに行ってみましょう。
大阪の伝統を伝える人面魚……? 91年続く老舗「福寿司」
最初の「会える妖怪」は、ビリビリモンスターのすぐ近くにある「福寿司」の店主・和田さん。握り寿司だけでなく、昔ながらの伝統的な「大阪寿司」を提供する、91年続く老舗寿司店です。
ここでのおすすめは、大阪名物の押し寿司(箱寿司)と巻き寿司がセットになった「大阪寿司」。握り寿司が江戸で誕生する前から、上方を中心に食べられていた伝統の味です。
スニーカーを愛しすぎて……趣味全開のたこ焼き屋「丸幸水産」
次の妖怪は、ぎんさんと共に布施商店街を盛り上げる重要人物の一人、「丸幸水産 布施店」の店主の寺田さんです。寺田さんは祖父母の代から布施で商売をしている生粋の布施っ子。東京からUターンして、地元で店を開業しました。
生タコを店内で釜茹でした自慢のたこ焼きを店頭で販売。扉の先は飲食スペースかと思いきや、スニーカーが展示されている趣味の部屋なんです。
ナポリ直輸入の窯を被った妖怪? 「That’s PIZZA」
「That’s PIZZA(ザッツピザ)」はピザの本場・ナポリで修行を積んだ店主の梶原さんが営む人気のピザ屋。ナポリから直輸入した窯で焼き上げる本格的なピザが食べられるのは、布施でここだけです。
お店の隣にある24時間営業の無人古着販売所「フセスリフト!!」には「That’s PIZZA」の冷凍ピザ自販機が設置されています。その斬新さがSNSで話題になり、テレビでも紹介されるほどの人気沸騰アイテムに。
超レアな隠れキャラ? 日本一大きなえべっさん
妖怪フィギュアのガチャガチャの中に超プレミアな「隠れキャラ」として入っているのが、えべっさんこと「戎大神」。「布施の戎さん」と親しまれている「布施戎神社」は、毎年1月9日から11日まで行われる「十日戎」の期間、福笹を買い求める参拝客で賑わいます。
商店街の空き家が客室になったホテル「SEKAI HOTEL」
「SEKAI HOTEL Fuse」は、商店街に点在する空き家をリノベーションして客室にし、飲食会場や浴場を街全体に分散させた「まちごとホテル」。周辺のお店と提携して、商店街全体を楽しんでもらうことで、布施の街を盛り上げています。
営業時間:カフェ13:00〜22:00、チェックイン対応15:00〜22:00
定休日:水・木
電話番号:06-6748-0750
公式サイト
酒と音に浸れるナイトスポット「食酒座kezakeza」
最後におすすめのナイトスポットをご紹介。2023年1月「みやこ町商店街」にオープンした「食酒座(けざけざ)」は、お酒と音楽が楽しめるお店。ライブハウスやクラブイベントのフード出店で定評を得ていたさなっぺさんとDJとしても活動しているミュージシャンの夫が店に立ち、音楽好きが集まる場所になっています。ライブイベントも不定期開催。
妖怪を紐解くとその土地の新たな姿が見えてくる
妖怪とは、人間の理解をこえる奇怪な現象や、それらを起こす不可思議な力を持つ非日常的な存在のこと。日本の「八百万の神信仰」と「擬人化させる能力」が生み出した産物であり、世界に誇る文化の一つです。
妖怪の発祥の地に足を運び、妖怪を再解釈して絵に起こしているぎんさん。妖怪を紐解く過程で、その土地の新たな一面を発見する面白さがあるといいます。
「文献を読むだけじゃなくて、現地に行ってみないとわからないことがある。神社の神主さんや街の人に話を聞いたりして、自分なりに解釈してから妖怪の絵を書くんです。毎回何らかの発見があって楽しいんですよ」
戦前から続く下町の商店街で、今を生きる布施の妖怪たち。街を歩いて、会って、誰かの日常という不可思議な非日常を体験してみませんか?
- Text
- トミモトリエ/オカジマアヤノ
- Photo
- 平野明
- Edit
- トミモトリエ
- Direction
- 人間編集部
※掲載情報は2024年3月時点のものです。掲載店舗・施設に関する最新の営業時間は各店舗・施設のHPなどでご確認ください。