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大阪まるわかり

オリヴィエ・ローランジェ Interview

海は今、危機にあります。何もしない選択もできますが
   命の源を守ろうとするのが”良きシェフ”だと思います。

オリヴィエ・ローランジェ氏は、20年以上「サステナブル」は料理界の課題と言い続けてきました。現在、副会長を務める「ルレ・エ・シャトー」では、2010年からこれに取り組み始めました。その結果、大西洋マグロは、資源量を回復。ローランジェ氏の信念は、現実を動かし始めています。



海は地球の70%を占めています。はるか昔、この大洋から命が生まれました。海は全ての人たちにとっての命の源。そして、巨大な食糧庫でもあります。私たち料理人にとって、これはひじょうに大事なことです。

 私は、フランス・ブルターニュ地方のカンカルという小さな港町に住んでいます。この町の海は干満の差が大きく、ヨーロッパでも類を見ないほどプランクトンの種類が多く、魚の宝庫です。1日何時間か海水に浸されないと育たないタイプの植物も大変よく育ちます。つまり海と月の満ち欠け、満ち引きによって守られている場所だと言えます。車で1時間弱西に走ると港町サン・マロ。海洋民族の故郷です。彼らの軌跡をたどれば、中東、インド、アジア、そして新大陸につながります。海を生きる場にしてきた人々の物語が、土地の物語となり、土地の料理になっていきました。

おいしさを求めるだけでなく エシカルでもあること

人類にとってもっとも大切な海が今、危機に直面しています。ちなみに、世界の漁業資源の内、持続可能なのは残り10%。世界の海に生きる大型魚の、9割がすでに漁獲されつくしているという報告もあります。世界の海と食卓から、魚が消えようとしているのです。それなのに、大規模漁業によって混獲された魚の、じつに40%が、食べられることなく廃棄されています。ここで注意しなければいけないのは、小さい漁船ではなくて、あくまでも大規模な漁業が危機を加速しているという事実です。

 ヨーロッパでは獲られた魚の60%がレストランで消費されています。となれば、料理人の負っている責任は重大だと言わざるを得ないでしょう。もちろん、何もしない、何も考えずに自分の仕事を続けていくことも可能だと思いますが。我々がしなければいけないのは、漁を禁止することではなく、たとえば世界の料理人が各々の地域で意識を高めることによって、それぞれの地域の海洋資源を守るためにできることは何なのか、を考えることだと思います。そのためにはまず、それぞれの魚がどれくらい危機にあるのかを把握することが大切です。次に漁獲方法。どんな方法なら生態系を壊さないのか。三つ目は、どれくらいの大きさの魚なら獲ってもいいのかを決めること。四つ目は季節。魚によって産卵の時期は異なります。産卵前に漁獲すれば数が減ってしまいます。   負の連鎖を断ち切るには、未来の料理人はグランシェフではなく、ボンシェフ(良きシェフ)であるべきだと思います。「おいしい」だけではなく、倫理的(エシカル)な料理が求められています。そのためには、食べることの楽しさ、喜びを提供しつつ、生態系の多様性を守ること。そして人の健康、地球の健康を守る。そんな"ボンシェフ"が、自然に敬意を払って生きてきた日本からどんどん生まれてきてほしいと願っています。

「ブルターニュには妖精が生きている。その日の風や温度によってもたらされる、ポエジーの味をここで味わう。カンカルはそういう場所だと思う」とローランジェ氏はいう。

Olivier Roellinger

1989年ルレ・エ・シャトー加盟。「レ・メゾン・ド・ブリクール」オーナーであり、フランス随一の巨匠シェフ。世界60カ国の高級ホテル・レストラン約580軒が加盟する会員組織「ルレ・エ・シャトー」副会長。三ツ星獲得したシェフでありながら、地元、仏・ブルターニュにこだわりを持ち続け、環境や地域との共存を提唱し、世界の料理界に影響を与えている。

Ⓒ食の都・大阪 デリシャス・ジャーニーズ 2019
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